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バレエ「ダーナの泉」 あらすじと曲目解説
<1幕から2幕「四つの総(よつのふさ)」のシーンまで>


あらすじの前に・・・知っておきたい2つの国:フォモール国とフロレスタン国

フォモール国 ~司令官バロルの支配する強国~
プロローグ:

時は中世、アジアの西に位置する大国フォモール国。その国の司令官バロルは強力な軍隊を持ち近隣諸国から恐れられていた。ある日バロルの宮殿の一室で厳かに儀式が執り行われる。そして彼はドルイド神官(*1)の長老から不吉な予言を告げられ震え上がる。
それは彼自身がいずれ一人の若者の刃にかかって命を落とすだろうというものであった。お告げに恐れおののき、自分の運命を何とか変える手立てはないものかと、必死の形相で尋ねるバロル。すると神官の長老は彼をなだめ、オーク(樫)の木の幹から、虹色に光る不思議な玉を取り出し、おもむろにこう答えた。
「この玉には悪霊が封じ込められております。悪霊によって選ばれし、一人の娘があなた様の命をお救いするでしょう・・・それはどこぞの国の領主の娘、されど誰でも良いという訳には行きません。娘が自らの意思でこの玉に触れ、その瞬間、稲妻の様な目も眩む閃光と、雷鳴の様な轟音が鳴り響けば、それこそが悪霊がその娘にとりついた証拠。悪霊にあやつられた娘はあなた様の守護神として、終生そのお命をお守りするでしょう。」
これを聞いてバロルは大喜び。やがて部下の手によって、何人もの領主の娘達が秘かに連れて来られた。そして一人一にその不思議な玉に触れさせようとしたが、玉に何の変化も起こらない。バロルは失望し、玉の秘密が漏れるのを恐れ、娘達を幽閉してしまった。
(*1)ケルトにはドルイド神官と呼ばれる天文の知識を持ち、聖樹崇拝を重んじ、占いを行う者がいた。


フロレスタン国 ~ダーナの泉のある、緑豊かな小国~ 
所変わって、こちらヨーロッパの東に位置する小国フロレスタン。
妻に先立たれた領主フロレスタンは、年頃の二人の娘ティナとベルの父親である。人々は温厚な領主の下、緑豊かな自然に恵まれたこの地で穏やかに日々の暮らしを営んでいた。
彼らには、ことの他大切にしているものがあった。それは森の中の、滾々(こんこん)と清らかな水の湧き出る泉である。その水は命の糧であるばかりでなく、怪我や病をも治すという。泉には女神ダーナと彼女に仕える二人の妖精が棲んでおり、人々はこの泉を聖なる「ダーナの泉」と呼び、大切に守り、心の拠り所としていた。
ところで最近、領主には心配事があった。それは東方のフォモール国の不穏な動きである。
司令官バロルは、強力な軍隊を率いて既に幾つかの近隣の国に攻め込んだという。
年老いた領主は戦を避けようと使者を送ったが返事はなく、同盟国に助けを求めた。
そして一人の武勇に優れた若者ルークと兵士達が助っ人として送られて来た。



1幕1場
【フルピコの詩(うた)】
今日はフロレスタン国にとって大切な、聖なるダーナ感謝祭の日。
村人は領主の館の前庭に集まり、祭りの準備をしているが、何人かの兵卒達は黙々と剣の稽古を続けている。上官ルークの命令で祭りの前にもう一息、稽古に精を出す様、言われているからである。
しかしその中の、一兵卒ベンは、もう祭りを前に先程から心、此処にあらずである。
ご馳走の匂い、注がれるワインにたまらず「もう稽古はこの辺にして楽しもうよ!」と皆を誘う。そして秘かに持っていたフルピコ(*2)を取り出し見事に吹いて周囲を驚かせる。すると他の兵卒、村人達も次第に一緒に演奏したり、踊ったりで大盛り上がりになる。
 (*2)フルピコは岡本の想像上の楽器。フルートとピッコロが合体し高音域まで持ち替えなしで
   吹け、オクターヴの同音は同時に出せる。
ところがそこにルークが登場、ベンはフルピコを取り上げられるハメになる。

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【ティナとベル】
すると、領主の二人の娘ティナとベルがコロコロと転げる様に登場する。二人で追いかけっこしたり、仲良く手をつないで踊ってみたり、屈託無く笑いふざけてみたり。ハレの日に二人共ウキウキ、はしゃいでいる。この曲は木管四重奏。
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領主も登場、「もう剣の稽古もこの辺で良かろう。」の一言で座は一気になごみ、数々の出し物、ダンスが繰り広げられて行く。
やがて日が暮れかけ、時を告げる鐘の音が聞こえる。すると領主をはじめ村人達は皆、手に手に灯りと壷を持ち、ダーナの泉のある森へと移動する。


1幕2場
【ダーナの恵み】
泉のほとりで皆祈りを捧げ、女神の出現を待っていると、やがて泉の中から妖精と女神ダーナが出現する。女神は銀の壷から村人一人一人に命の水を与え、皆、水を有り難く受け取って行く。やがて列が進みルークの番になると女神は聖なる剣を彼に差し出す。そしてじっとルークの眼を見つめて言う。
「これからあなたもこの国も、大変な困難に巻き込まれる運命になるでしょう。が、どうかあなた自身の力でそれを切り開きなさい。」
剣の重みにハッとするルーク。村人達はそんな事は何一つ知らず、手に手に大事そうに壷を抱え、満ち足りた気持ちで、嬉しそうに家路を急ぐのだった。
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夜も更け、泉のほとりでルークとティナによるアダージオが踊られる。が、それからまもなくバロル率いる軍が進攻、ルークは果敢に戦うも遂に領主一家を連れて逃避行を余儀なくされる。途中、村の金細工師ダグザが敵兵に殺され、これに怒ったティナは敵を深追いし敵国に連れ去られてしまう。村は荒廃、泉は枯れ始め、ダーナは泉の底深く身を潜めた。
自分の無力を悲嘆するルークにベルは聖なる剣を握らせ、ティナを救いに共に旅立つ。


2幕1場
所変わって此処は敵のフォモール国の一室。妖気を漂わせ光輝く玉の傍らでティナは眠り続けている。やがてティナは目覚めるが、果たしてティナはバロルの巧みな誘導により玉に触れ、閃光と轟音の中、バロルの守護神とされてしまう。
バロルはじめ臣下一同大喜びで、謁見の間で大祝宴会が開かれる。


2幕2場
バロルを祝う数々の踊りディベルティスマン(*3)が繰り広げられる。
  (*3)物語の筋に直接関係のない小品の数々
【四つの総(よつのふさ)】
やがて某国の王子と王女の兄妹に扮したルークとベルが貢物を持って参上する。実はベルは密かに眠り薬を隠し持ち、宴もたけなわになった頃に隙を見て酒瓶に混入、一同が眠った所でルークが剣でバロルを亡き者とし、ティナを救い出そうという手はずになっている。
が、バロルは知る由もない。兄妹からの見事な鳳凰の献上品にバロルは上機嫌。
二人を大いに気に入り4人で踊ろうではないかと提案、周囲は拍手喝采し、ティナ、ベル、ルーク、バロルによる4人の踊りが繰り広げられる。


*四つの総(よつのふさ)について

2幕で重要な役割を占める曲、「四つの総」についてもう少し詳しく述べる。
四つの総とは、相撲で土俵の吊屋根の四隅に下げられている4色の総(ふさ)を意味する。
神事である相撲の総とは、同時に4体の神であり、天の四方を司り守護する役目がある。

黒:玄武 冬 北の方角 亀の神      青:青龍 春 東の方角 龍の神
赤:朱雀 夏 南の方角 鳥の神      白:白虎 秋 西の方角 虎の神

バレエ「ダーナの泉」では4色に主要登場人物を当てはめ、黒(バロル)、青(ルーク)、赤(ティナ)、白(ベル)として表現する。それぞれの人物にはそれぞれ提示する旋律があり、バロル(ファゴット)、ルーク(チェロ)、ティナ(クラリネット)、ベル(オーボエ)で演奏される。旋律は2人ずつ組み合わせながら進み、やがてメインとなる男同士1対1の、気迫ある勝負の場面が展開される。最高潮に達した後、やや静まるが再びティナの旋律に戻り、ラストは4人の旋律と共に全パート一斉の演奏でクライマックスを迎える。


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