第2部
【登場人物】( )内は衣装の色
● ティナ:(赤) フロレスタン国領主の娘。姉妹の姉。活発で男勝りだが妹思いのしっかり者。
● ベ ル:(白)ティナの妹でおとなしく心優しい。ルークの恋人。
● ルーク:(青)さすらいの青年。女神ダーナを大切に守るフロレスタン国が気に入り、
暮らし始めている。剣の達人でフルピコという笛の名手。この物語の主人公。
● バロル:(黒)強大なフォモール国の冷酷な司令官。自分の不吉な運命に怯えている。
● アンサンブル:(ピンク)村娘、召使、門番として登場。
● ストーリーテラー&占い師: 物語の進行役&ドルイド(後述)という重要な役柄
〜ダーナの泉〜
紀元前のアイルランドに伝わるケルト神話をベースに、オリジナルストーリーを書き、同時に作曲
して、物語のあるバレエ作品に仕上げました。(全12 曲、約45 分)
バレエにはセリフがありません。ですから新作の場合、よほど事前にあらすじを読んでおかないと
内容がわからないと思われるかもしれません。でもご安心下さい。
今回はわかり易いバレエをめざし、演劇とバレエが融合、ストーリーテラーがご案内をしながら物語
を展開させます。
そんな訳で、あらすじはあえて書きませんが、事前にダーナ神話のミニ知識、見所を挙げておきま
しょう。
<ルークとバロル>
ケルト神話の中に登場するダーナ神族は、圧政を強いるフォモール族と闘った。
フォモール族を率いるバロルは戦となればその魔眼で敵の兵士を殺す大男で、闇のバロル、
一方ダーナ神族を率いたルークは万能の神であり、光の神ルークと言われた。
〜ルーク出生の秘密〜 実は二人は祖父と孫?!
バロルは、ある日ドルイド★(後述)から恐ろしい運命を告げられる。
それは自分が孫の手にかかって殺されるというものだった。バロルは娘のエスリンに侍女を
つけ、高い塔に幽閉する。けれどキアンという若者が近付き、娘は3 人の子供を授かる。
怒ったバロルはアイルランドの荒波に三人の孫を投げ捨てた。すると、その中の一人ルーク
だけは海神に助け出され、鍛冶、詩芸、医術、魔術等の神々の養子となり、様々な技能を身
に着け成長する。やがてダーナ神族の王となり、フォモール族との闘い勝利した。
しかしながら、ルークには宿敵フォモール族の血も流れていた、という事になる。
〜バロルの最期〜
バロルの最期には諸説あるようだ。優れた鍛冶師の評判を聞いたバロルがルークの元にや
って来たがお互い素性を知らない。が、バロルがルークの父親キアンを殺した自慢話をし
た為、ルークがバロルと気がつき、焼けた鉄の棒を魔眼に刺し貫いた。又はルークが戦で
魔眼を避け、背後から投石機で襲った、たまたま小船に放った矢がバロルに当たった等々。
<ドルイド★>
ドルイド神官は天文学を始め、自然界の摂理に通じる。権力者は未来を予言する彼等の力
を頼り、ドルイドは王と深く関わり、占い、助言、時に忠告も行う大きな力を持った存在
であった。白装束に身を包み、女性のドルイドも存在したと言われる。聖樹崇拝、特に樫
の木(オーク)のヤドリギは貴重とされていた。霊魂不滅、輪廻転生の教義(ドルイズム)
を説き、ケルトの戦士は死を恐れず非常に強かったと言われる。
参考文献:図説ドルイド ミランダ・J・グリーン=著 井村君江=監訳 大出健=訳 東京書籍
中心人物として登場する4 人はそれぞれの色の衣装を身に着けている。
ルーク(青)バロル(黒)ティナ(赤)ベル(白)
この4 色の色から思い浮かぶ事はないだろうか?それは相撲の土俵の四方に掲げられてい
る四色の総(ふさ)の色で、青又は緑(青龍・東・龍・春)、黒(玄武・北・亀・冬)、
赤(朱雀・南・鳥・夏)、白(白虎・西・虎・秋)を意味していると言われている。
〜終盤に踊られる「四つの総」の踊り〜
このバレエには男の闘いという1 つのテーマがある訳だが、それを此処では武器を持つ闘
いとは違う、心の闘いを表現をしたいと考えた。音楽的には、4 人にそれぞれ特徴的なフレ
ーズを作り、赤×黒、白×青、全色、と言う様に、フレーズをパズルの様に組み合わせな
がら進行する。その間に男性同士の踊りも入り、曲調は高まって行くが、この曲は7 分以
上かかるものでダンサーにとっても相当負担のかかるものだ。それだけに見応えもあり、
是非楽しんでご覧頂きたい。
泉の水は神話の中では、飲み水としてだけでなく、病や怪我を治す力があるとされている。
が、実はルークとバロルの闘いでは泉は登場しておらず、この点はあくまでも私の創作だ。
では何故泉の水を取り上げたか?だが、特に宗教的な意味合いがある訳ではない。
村人達が大切に守る森の奥深くに眠る青い泉、そこに棲むダーナ、という発想はむしろ私
自身の子供心、その原風景にあると思う。私の故郷は昔から海運が盛んで川辺に水神社が
建ち、そのお祭りをいつも楽しみにしていた。又、当時レニングラードバレエと呼ばれた
バレエ団が数年に一度、静岡市にやって来て、そこで観た「白鳥の湖」も衝撃的なものだ
った。まだ今のロシアがソ連と言われた時代、舞台の青白さは透明感と冷感があり、何か
ゾクゾクした感覚を今でも覚えている。そんなブルーの色や水の感覚が泉につながったの
かもしれない。人にはそれぞれ故郷の山、川、森など、自分の心の拠り所となる風景があ
ると思う。そこの小さな祭りを通じて人々が繋がったり、祈る事で遠く祖先を想ったり・・・
そこをこの物語の原点としたいと思った。
2019.4.22 岡本由利子 |