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 バレエ「ダーナの泉」 総まとめ N0.4 


 公演についてはただの記録だけでなく、エピソードや、その時に思ったり感じた事も加えて、主に下記3つに分類して書いてみようと思う。

<音楽> <バレエ(前半)(後半)> <プロデュース(前半)(後半)>


<バレエ (後半)>

江藤先生との打ち合わせ

江藤先生には、その頃、静岡で行われたM 先生のバレエスクールのワークショップで一度お会いしている。新国立劇場バレエ団プリンシパル小野絢子さんが、生徒さん達の指導にいらしていて、その時の伴奏ピアニストが江藤先生だった。終了後、私の音楽を聴いて下さった事への御礼のご挨拶に伺った。私は何より江藤先生が振付だけでなく、指揮もされる方だと聞き、それならばスコア譜(オーケストラ用の楽譜)の話が直接出来る。音楽をどう足したり、カットするかも譜面上でお話が出来る、こんな有難い事はない、と思っていた。それでとっさに「江藤先生に繋いで頂きたい。」の言葉が出たのだと思う。

ほどなく、M 先生より江藤先生が「ダーナの泉」の振付を引き受けて下さったとの知らせが入った。この時は本当に心の底から嬉しかった。やっとバレエに辿り着く事が出来る・・・
その後、江藤先生と何回か打ち合わせをする事になるが、先生が主に東京と千葉で活動されている事も、東京住まいの私にとっては有難かった。

2018 年9月下旬に、初めての打ち合わせの日が来た。
私はまず「自分が書いたストーリーによる、ドラマチックなバレエを創りたい。」という意向を伝えた。振付家の中には、モダンなバレエ、抽象的なバレエ作品の方が好みで得意という方もいらして、方向性が噛み合うかは大事な所だ。幸い先生は、物語と音楽の展開と共に振り付けを考え、一緒にバレエを創って行くという方向を了解して下さった。


私がやりたかった事、バレエの何処に惹かれるのか?

私が今回、最もやりたかったのは物語の展開と共に、自分の音楽とバレエがどう連動するのかを実際に見てみたい、という事だった。

一般に物語があって、クラシックなスタイルで踊られる多幕物のバレエは、グランド・バレエと呼ばれ、見ごたえのあるものだ。バレエには「ダンス」と「マイム」の部分が散りばめられていて、その二つが絡み合い、物語が進んで行く。例えば「白鳥の湖」なら、オデットが切々と、自分が何故白鳥の姿になったのか、身の上を語るシーンは「マイム」で表現され、一方パ・ド・ドゥや、繰り広げられる群舞は「ダンス」。そして迎えるクライマックス・・・

バレエはオペラやミュージカルの様に言葉で語らないだけに、無言の感情表現の中に、かえってキリっと引き締まった緊迫感があると感じる。顔の表情だけでなく、繊細な手の指先や足の運び、肩の震えに至るまで・・・踊り手に高い技術とセンスが無ければそれは表現出来ないだろうし、更に役柄にその踊り手の人間性が投影されて個性が浮き彫りになる。
その典型として、私が幼い頃には、20 世紀最高のバレリーナと言われたマイヤ・プリセツカヤがロシア(当時はソ連)から西側諸国に姿を現わし、話題になっていたが、彼女のオデットの姿は未だに眼に焼き付いている。もしかしたらそれは映像だったかもしれない。
が、現在から当時の映像を見るより、ずっと身近な感覚だった。ソ連と言うヴェールのかかった世界、未知の閉ざされた世界からやって来たバレリーナというだけで、何処かゾワゾワするものを感じてはいたが、そのオデットには、威厳、孤高と言ったらいいのだろうか、凛とした女王の風格の様なものがあった。悪魔によってオデットが引き寄せられるシーンなど、その腕の動きの細やかさは、まるで本当の魔法にかかっているかの様で息を飲んだ。後で調べてみれば、彼女の父親は銃殺され、母親も流刑となり親戚の元で育てられたという重い過去がある。常に国家の監視下に置かれ、自身もいつどうなるのかわからない。そんな運命の中で生きて行かなくてはならない現実と、オデットの宿命は重なり、彼女のバレエから滲み出ていたものなのかもしれない。個性という話で彼女の名前を出したものの、もはや個性を超えている。「踊る」その一瞬に、自分の命をかけている姿だったのかもしれない。そういう意味で私には唯一無二のオデットだった。

少々話が逸れてしまった。ただバレエの世界独特の静と動、ダンサーの描く軌跡、聴こえるのは音楽のみ、そんな音楽とバレエが呼吸するかの様な世界に曳き込まれたのかもしれない。と、此処まで書くと、次が書きにくいのである。汲めど尽きせぬバレエの深い話、本物に出会い、その真髄に触れ感動し、それがあなたのバレエの醍醐味となったならわかる、でもその先何をしたいの?と来そうだ。

私自身、作曲を全く知らなくて、バレエ音楽を作ってみたい想いだけで、此処まで来るとは思ってもみなかった。本当に暗中模索とはこの事だ。正直バレエの本を読んでみても、作品にまつわる作曲家や音楽の紹介はあっても、バレエ音楽の作り方が書いてある本には出会った事がない。それでまず物語を作り、シーンに沿って小曲を書き溜めて、ようやく見つけたカルチャーセンターの「作曲講座」の先生に作品を見て頂く、という作業を一歩一歩をして来た。が、それがピアノ譜からスコア譜の作成になって来ると、各楽器の使い方も難しくなって来る。私の音楽で本当に踊る事が出来るのか?はいつも疑問だった。


バレエ音楽の作曲家は現在どの位いるのか?自分から踏み出す一歩

それにしても、この現代にバレエ音楽を専門にしている作曲家はどの位いるのだろうか?本当は結構いるのに、私がその数を知らないだけなのか?でも感覚としてそんなに多くない気がする。
かつて皇帝や貴族の庇護の下でバレエが花開き、次々新作が求められ作曲家が活躍していた時代には、グランド・バレエが花開いた。チャイコフスキーの3大バレエが有名だ。
グランド・バレエの音楽には反復(繰り返し)がつきもので、場合によっては、この曲のこの部分はカット、此処には何小節欲しい、という様な事が繰り返し起きていたのではないかと思う。例えば群舞には、一つのフレーズを繰り返し、畳みかける様に踊る迫力がある。そこにあるのは、シンプルなメロディーラインと、しっかりしたリズムで支えられたバスライン。一方、バレエはあくまでもダンサーという肉体を通しての芸術表現。振付家はダンサーの動きや呼吸を感じて、余分だと思う音楽を大幅にカットする事もあっただろう。

私は時々、現代音楽作曲家の作品発表公演に行くのだが、作品は複雑で緻密なものが多い。
現代音楽作曲家の側から見たらどうだろう?恐らく彼等は自分が練り上げた作品の音符の一音も、動かして欲しくはないものではないだろうか?敢えて制約のあるバレエ音楽に取り掛かろうと思わないかもしれないし、言葉は悪いが自分の音楽に切った貼ったされるのは好まないかもしれない。
でも、振付には勿論音楽が先行する場合もある。作曲家があるイメージで曲を書き、それにインスピレーションを受けて振付ける場合。モダンな作品も幾つかあるし、今はむしろ主流はそちらなのではないか?

けれど私が創りたいバレエは数曲から成る物語作品。先述のダンスとマイムを、どの様に組み合わせて物語を展開させたら良いのか?やはり結局、自分で考え、やって検証してみるしかない、そういう結論が出て自身で踏み切る事にしたのだ。


打ち合わせの内容

さて又、回り道が続き、やっと江藤先生との打ち合わせの内容の話である。まだバレエは何一つ見えていないので、まずはざっくりと大きな所から。
どの位の長さのバレエを創るのか? バレエダンサーは何人位必要か?等、様々な事を予算と照らし合わせながら決めて行く。事前に叩き台は用意して行ったが、先生はテキパキと物事を進めて下さる方なので気持ちが良い。比較的スムースに以下の様な大まかな方向が決まった。

【公演の構成】
第一部と二部の二部構成とし、第一部を自作ピアノ曲「母の情景」と歌、第二部をバレエ「ダーナの泉」とする。
【ダンサーの人数】男性2 名、女性4 名+バレエミストレス
【音楽】私が以前、録音をお願いしたgaQdan に演奏を依頼する。
【時間】バレエの公演時間は45 分程度(未定)
【大きな確認事項】
*日程として、リハーサル日の確定と関係者への周知、前日仕込みの為の会場枠の確保。
*練習会場の予約。年明けからかなりの練習時間が必要となる為、それに伴いかなりの練習会場のレンタル料が発生する事も先生からお聞きした。
*先生から音響と録音、撮影と録画の方をご紹介頂き、私が直接連絡を取って交渉する。

その結果
【私のする事】
(1)リハーサル日の会場の予約、前日仕込みの為の会場の夜間枠確保
(2)第一部の出演者と演目の決定&打ち合わせ
(3)スタッフ
  ①ご紹介頂いた音響と録音、撮影と録画の方々に連絡と交渉、本番日とリハ日の連絡。
  ②舞台監督、照明、演出家の方々は私の方で探し、上記同様に日にちの連絡、更にどういう舞台を作りたいのか、その規模、予算を含め、打ち合わせを進める。
(4)音楽
  ①gaQdan 関係者との打ち合わせ
  ②大体10~15 名程度のメンバーを集めて欲しい旨を伝え、編成の詳細は私から後日連絡。
  ③gaQdan メンバーは木管、弦楽器主体なので、他楽器のエキストラについてはgaQdan側で見つけて頂く。
  ④パート譜(各楽器毎の譜面)の受け渡し方法
  ⑤費用<出演料+持ち込み楽器(ハープ、打楽器)+運搬費>
(5)チラシとプログラムの作成とチケットの販売
  ①出演者から写真とプロフィールをすぐ送ってもらう。チラシはすぐ取り掛かる為。
  ②プログラムのデザイン、構成他(依頼する場合は引き受け業者、デザイナーの決定)
   「コンサートサービス」に依頼し、各コンサート会場でのチラシの配布
  ③今回は「チケットぴあ」で販売予定。申し込み手続きと販売
(6)未完の曲の作曲継続と完成へ 音楽データを江藤先生に送る。

【江藤先生】
(1)音源から振付を考え、スコア譜も読んで頂く。
(2)ダンサー、バレエミストレスを集めて頂く。
(3)チラシは早めに取り掛かる都合上、全員の写真とプロフィールを私宛てに送って頂く。
(4)衣装については江藤先生の奥様が担当して下さる事になった。今回のバレエの雰囲気に合わせ、生地やデザインを考えて頂く。

◎と、まあちょっと思い出しながら書き出しただけでも、目の回りそうにやる事が本当に山ほどあったものだ(笑) でもこんなチャンスはそうあるものでもなく、此処までこぎ着けた事を思うと、パワーがみなぎっていた毎日で、秋はそんなこんなで飛び回っていた。


実際のバレエ稽古を通じて(見た事、聴いた事、感じた事、裏話等)

さて2019 年の年明けから、ダンサーとの練習に入った。

(1)初めてバレエダンサーに会って
江藤先生と打ち合わせで、初めて喫茶店でお会いした時も感じたのだが、スラっと背が高くて確か金髪だったかな?私の周囲にはいない、別世界からやって来た人という印象だった。
バレエの世界だからごく当たり前の事だけど、バレエダンサーは立つ姿勢、仕草が綺麗。
作曲で前かがみになり、肩凝りに悩んで来た私には、それだけで軽いカルチャーショック(笑)
まぁそれはさて置き、バレエというものを、観客として遠くから見る事はあっても、こんな間近で見るのは、ほぼ初めてに近いので、いろいろ感じた事は多かった。

皆さん、ダンサーとして長年活躍して来た人ばかりだから、疲れたとかは顔にも口にも全く出さず、いつも次に備えている。あれだけ踊っているのに涼しい顔をしている!と私は心の底から感心してしまうけど、背中から汗が吹き、肩で息をしている姿を見ると、「あ~曲が長過ぎるのか?無理しているんじゃないかな?」と、母親にでもなった気分で何度か気になっていた・・・

そもそも10曲程度、1時間近くあるドラマのあるバレエを6人で、というのもなかなか大変な事で、かと言ってこれ以上ダンサーは増やせないので色々な事が起きた。
アンサンブルをやって頂いたお二人には、村娘、門番、召使(踊り子)と、なんと3役も早替えで演じ分けて頂く事になった!
更に女神ダーナ。元々タイトルにもなっている重要な役割なのだが、踊りが中心の役ではないので「今回は存在を『光』(照明)か何かで象徴的に表現しようと思います。」と江藤先生にはお伝えしてあった。が、やはり「わかり易いバレエが大事。」との先生からのアドバイスがあり、再考する事に。「そうだ、近くにうってつけの方がいらっしゃるじゃない!」・・・果たして此処でミストレスの佐藤真左美先生が駆り出される事に。まだお会いしてから間もない時だったが、練習後の地下鉄車中でおずおずと打診したのを覚えている・・・先生も「えっ?えっ?!私も出るの?」と初めは驚いていらしたが、後日承諾して下さった。この様に、女神は初めから決まっていた訳ではなかったのである。結果的には美しい女神の姿で登場して頂いて大正解。ただただ皆様の、この様なご協力があって出来上がったバレエなのだ。感謝しかない。

(2)バレエと音楽
①まずはカウントから!
これも又バレエの内部にいる方々には当たり前の話。でも、振付が始まってみると、ひたすら江藤先生の「いちとうにいとう・・・」とカウントする声とバレエ用語が響き渡っていた。
あーそうか、振付はまずそこからなんだ、とあらためて思う。振付家が、何拍この動きで移動して、何処でこのポーズになるのかを指示する。その一連の動きを正確に刻み込んで行くのがダンサーなのだと。正直、毎週、次の違う振付に移って行くのだが、たまたま違うアイデアが浮かんで振付をやり直す時以外は、後ろに戻る事はまず無かった。ダンサーは毎回全部を身体に覚えさせて次に臨むものなのだ。子供ではそうは行かないだろうが、力のあるダンサーが揃えば、それが原動力となって短期間で新作を形に出来るのだと実感した。
音楽、残念ながらこの時の練習用の音源は決して良い物では無かった。私が作成している楽譜からMP3 ファイルに変換するのだが、打楽器部分の設定に難があって、とんでもない音が出てしまう。まあ、せめてもの救いは、スコア楽譜から直接音楽を起こしているので、先程の、最も大事なカウントが合わない、という問題は起こらないで済んだのだが。
ただ自分としては、音楽的な意味での疑問質問を、もっとダンサーさん達から聞かれると思っていた所もあった。例えばこの辺がクライマックス、と言っても、クレッシェンドがカウントのどの辺から始まって、フォルティシモが何処にピンポイントで書かれているのか?と言う様な。その辺の事は例えば「白鳥の湖」でも、ダンサーの方々は、スコア譜を読み込んでから踊っているのか、そんな事はしないで流れて来る音楽から、あるいはあくまでも振付家の指示通りに動いているものなのか、私は知らないので何とも言えないが。

②自分の音楽をバレエと合わせてみて
バレエ音楽は反復やカットがつきものではないか?という事を書いたが、今回は圧倒的にカットした部分が多かった。カットしても此処から此処へ飛べる、という様な事も多少意識して書いていたので、その辺は比較的スムースに行ったが。
今回の場合、少人数なので、短めにしないと体力が持たない。と言っても何処もカット出来ない「四つの総」の様な曲もあり、相当ダンサーに負担をお掛けした部分もあって申し訳なかった。
曲の中には、本来のテンポより相当ゆっくりにした曲もあるのだが、これについては私はもっと自分の主張をはっきり貫いた方が良かったと反省している。全て可能性を試して駄目であればそれは仕方ないが、やはり音楽自体が本来目指したものとは違ってしまった。

③ストーリー
ストーリーは原作とはだいぶ異なっている。今回はベルとルークが恋仲という設定になっているが、原作ではティナとルークが恋人同士だ。これもアダージオとパ・ド・ドゥという、二つの男女で踊るシーンが続くのでバランスを取る関係上そうなった。物語のあるバレエでは大勢の村人が踊ったり、ディベルティスマンといったものが挿入されて、主役が休める所もあるが、そういう意味では少人数で1 時間駆け抜けるバレエを創るのは、難しくもあった。
もう一つ大きく原作と異なるのはラスト。今回はベルが瀕死のルークを生き返らせるが、本来は女神自身が救い、ベルは登場していない。泉の女神は人々から尊敬され、やや神格化された象徴的存在であるが、瀕死の我が子を救う母の姿、母性をあらわにする姿を表現したいと思っていた。ただ今回の場合は、そこに至るまでの設定と言うか、ストーリーがシンプルなので、これはこれでわかり易かったのではないかと思っている。

*以上今回は少し長くなりましたが、この辺にしようと思います。バレエは多岐に渡る方々のお力で成り立っていますが、此処でその全ては書き切れません。今回はどうして私がバレエに魅せられて行ったのか、バレエ音楽を作曲し始めて思った事、そしてバレエダンサー、振付家に自分のバレエ音楽を託して、練習風景の中で直接感じた事を書きました。


出演者、物語のあらすじ

下記参照下さい。
バレエ「ダーナの泉」の本公演(2019/5/4)の記録 写真集 出演者等

♪バレエ「ダーナの泉」あらすじと曲目解説では「四つの総」の踊りのシーンまでとなっていますが、バレエ「ダーナの泉」の本公演の記録 写真集本公演No.8(最終章前編) No.9(最終章後編)が足され、今回のバレエのあらすじの全容がおわかり頂けます。
あらすじと出演者については出演人数に合わせ、以前記述した内容を一部変更しています。


ケルトへのこだわり

ケルトの転生というものの考え方は「白鳥の湖」に通じますし、バレエ作品のあちこちに登場する妖精、精霊も、元を辿ればケルトに行き着きます。キリスト教の普及よりも更に前へ、太古へ・・・
何故ケルトをテーマにしたか、それはヨーロッパ人の基盤、源流とでも言うべきものなのではないか?と感じていたからです。
バレエ「ダーナの泉」についての文中、3.【グランドバレエを支えるテーマ】4.【ケルトのバレエ作品化への可能性】に記しました。なお、本番当日のプログラムPDF第2部テキスト版)に、今回の物語のベースとなった、光の神ルークと魔眼バロールの伝説を記載してありますのでご興味のある方はご参照下さい。


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