2003-10-04
(Sat)
(日曜日)ツアー体験
*たくましきかな大阪女
日曜日は案外早く目覚めた。時差ぼけもあり、何より今日は現地ツアーに参加して、遠方まで出掛ける事になっていたので遅れないようにと、多少緊張していたのかもしれない。
こちらは日暮れが毎夜9時10時、人のリズムも日本とは違って朝が遅い。朝6時に目が覚めたのに、朝食は一番早くて8時半からといわれた。それならと湖畔にパンくずを持って出掛けた。昨日、そこに、たくさんの白鳥や鴨の類が遊んでいるのを見たからだ。
坂を下って、清々しい朝の空気を胸いっぱい吸い込んで湖畔に着く。なんと?!私はその光景に頭が真っ白になった。鳥達はまだ寝ている!!みんな首を羽に突っ込んでまだまだ夢の中。おいおい、もう朝7時半近くだっていうのに。
これがほんとの「しらけ鳥・・・みじめ、みじめ。」 (古いゾ!)
さて、朝食が済むとほどなく、ミニバスが迎えに来た。参加者の泊まっている宿にピックアップしに来てくれるから親切だ。ブロンドの体格のいいイギリス人のお姉さんがドライバー。バスに乗り込んだ途端、バスの後方から突然大きな声がした。
「わあ、良かった、日本人やわあ!」
振り向くと、そこには私と同世代位の、大阪から来た女性が二人座っていた。
そのうちの一人はものすごくよくしゃべる人で、「何処から来た?」「一人旅か?」とか質問攻めにあった。出だしから先制パンチを食らったようにクラッとした。
やがて出発拠点の、昨日行ったウインダミアの町に着いた。現地ツアーはコースが何種類もあり、私は、彼女達の選んだ人気のあるコースとは、違うものを選んでいた。
「じゃ、別々のバスね。」と言って別れたのに、結局全員さっき乗ったバスに案内された。首をかしげていたら、参加者人数の少ないコースは人気のあるコースに吸収されたらしい。
私の選んだコースには、参加者が他におらず(私ってへそ曲がりなのかしら?)日本人は8人まとめて、コースもミックスさせて出発する事になったそうだ。(結果的には得した!
ただ私としては日本人だけでなく、いろいろな国の人も乗っている方が楽しいと思った。)
湖水地方には珍しく素晴らしい天気だ。山奥深く、バスは急で狭い道を進んだが、女性ドライバーは手慣れた様子でハンドルをくるくるまわして、かなりのスピードで駆け抜ける。日本の夏の緑濃い景色とは違い、山肌がむきだしの、何処か荒涼とした風景だ。
やがて、ある古城のテラスで昼食となった時、私は先程の二人の大阪から来た女性達と同じテーブルになった。そこでは、先にイギリス人の夫婦が食事をしていた。
そのイギリス人のご主人が、私達に向かって何気なく話しかけて来たのをきっかけに、先程の、よくしゃべる大阪女性のパワーが炸裂した。
私だって英会話が流暢に話せる訳ではない。けれどその私が聞いていても、お世辞にも上手とは言えぬ英語。けれど彼女は知っている、あらん限りの単語を並べ、大声でしゃべりまくった。さすが紳士の国なので、いやな顔こそしないが、その機関銃のようなしゃべりっぷりにご主人、いささか困惑顔。が、彼女はそれもなんのその、何やら頼み事までしてのけた!ともかくも、そのものおじしない積極性はたいしたものである。
大阪女性は後で私にこう話した。
「初めて個人で海外旅行に出掛けた数年前、私、なーんにもしゃべれなくて、エライ苦労して、こりゃ駄目だ、せめて日常会話せな、と思って・・・で、どうしたと思いまっか?」
「うーん? そうねえ、いっぱいきっけってー、いっぱいしゃべれーる、あたりに行った?」
「ちゃうちゃう、そんなお金のかかるとこ、誰が行きますかいな・・・」
彼女は首を振った。
「高校のネイティヴの英語教師を狙いますねん。」
「ん?」
「今時、英語が話せるだけのいい加減な先生なら、いっぱいいまっせ。けど、高校で教えるとなると、ちゃんとした優秀な先生でなくちゃ教師に招かれませんもん。」
「でも、そういう先生とどうやって知り合いに?」
「そこですねん。めぼしをつけておいて、夕方スーパーに買い物に行った時、先生に近づきますねん。『私は英語を勉強したい。空いた時、ちょっとでいいから家に教えに来て欲しい。』で、カレーでも作っておいて日本の生活を知ってもらって、ギヴ&テイク。」
ウーンと、うなっていたら、今度は畳み掛けるように
「で、奥さん、あんたイギリスまで航空賃いくらで来なはった?」
と来た。結構踏み込んだ質問だと思ったけれど、某旅行業者の格安航空券は往復12万6千円だったので、その通り答えた。すると、フンフンとうなずきながら
「私達、往復4万円で来たの、すごいやろ。」
と、友達の方を振り向いて、ちょっと勝ち誇ったように答えた。これにはビックリ!!
「ありえない、その金額は!」
と言ったら、それは、SARSの影響で大打撃をくらったアジアの航空会社が企画したもので、安い代わりに通常の倍、20数時間をかけて乗り継ぎ、ここに来たというのであった。
彼女は最後に、こうくくった。
「私、海外旅行には3つの条件が必要と思う。一つ目が健康、二つ目がお金、三つ目が行く気や。友達いろいろ誘ったけど、前二つがクリア出来ても、存外三つ目で考えてしまう人が多かったわ。なんでやろ、勿体無いわあ、こんな景色、もう一度言っても見られへん。」
窓越しに、滅多に土地の人でも見られないスカイ島まで遠く浮かんでいるのが見えた。
でも、「行く気」で思い留まってしまった人の気持ちもわからないでもない。本当に、全部を後に置いてかなりエイッと思い切らなければ来れないものでもある・・・
その日の夕方、一人屋根裏部屋に戻って、斜め窓から私はずーっと外を眺めていた。
湖畔にあかりが灯り、あたりが薄暗くなって来た頃、山の向こうの空は、ばら色に輝き始めた。小学生の時キャンプで「遠き山に日は落ちて・・・」を歌った事がよみがえる。
雲が風に流され、様々な形を、夕焼けに染まった空に描いて行く。それが、蛙、ねずみなど、ピーターラビットに登場する動物そっくりで、まるで一列に並んで行進しているかのようだった。
*イギリス旅行記後記*
正直の所、このイギリス旅行記は書こうか迷った。こんなご時世に「いい思いして。」と言われそうで、いっそ黙っていれば、何にも知られない(密かな喜び)で終わるのに。
けれど今回のこの旅は、個人旅行であった事もあって、同じく個人で旅をしている同世代の日本人との出会いもあり、思いがけず彼らの自由で屈託のない生き方にも刺激を受けた。
また、イギリス人はガーデニング好きと言われるが、訪ねたのが田舎だったので、至る所花に囲まれ、そこで暮らす人達の、自然を大切にする生き方、ゆったりとした「スローライフ」を楽しむ姿は、日々忙しさの中で自分の忘れていたものを、確かに思い起こしてくれるものであった。
そんなこんなをいささか珍道中記風に書いてみました。
翌日の月曜日、無事ウインダミアの村の駅で娘と会い、その後、彼女の留学先の町をまわって帰国した事を付け加えておきます。長い間読んで下さってありがとうございました。
イギリス旅行記(完) |